愛車CB750Fボルドール2の再起記録  vol 119

【ヘリサート再処理】 (2009/04/19)

 朝からヘッドカバーを外してカムシャフトホルダーを部屋に持ち込み観察する。
ホルダーの状態は悪くなく、ピッチ飛びでネジを入れた事によるクラックや欠けなどは全く無く綺麗な状態。
さて..ネジの中を見てみると、確かに奥のほうでピッチ飛びが起きているようである。
ヘリサートの上端部にピックを掛けてみるが、全く相手にならない..さすがにヘリサートは強い!
ヘリサートはスプリング状でネジ山に密着しており、逆回転させようとすれば更に食い込む。
また材質も強靭で粘り強く、標準のボルトなど相手ではない硬さを持っている。
少しトライしてみてヘリサートの強さが分かったので感心してしまった。
今までヘリサートに抱いていた不安感は一掃されて、素晴らしいネジ山の強さがある事が分かった。

という事は..はずれ難いという事なのだが、
考えた挙句にヤスリでヘリサートの最上端の一部を削って溝をつける事にした。
そして、その脇の母材の一部もヤスリで少し削って、そこから精密ドライバーを差し込んで浮かせる。
浮いたところに更に差し込んでヘリサートを摘めるまで慎重に押し出して、ニードルペンチで摘んでネジる!
ここまでくれば引きながらゆっくりと逆回転させればヘリサートは綺麗に抜けてくる。(^^
このニードルペンチでヘリサートが摘めたときは「やった!」と思った。

 
一時間掛かりで引き抜いたヘリサート 下から2山でピッチ飛びが起きている。
   

ヘリサートを引き抜いたら、抜けたヘリサートをよく観察して、ネジ山もよく観察する。
私のはどうやらネジ山が十分に立って無かったところにヘリサートを無理にネジ込んでしまったようだ。
ヘリサートというのは、本来必要な長さだけ入れれば良く、よく考えてタップして長さを決めないといけない。

   
再タッピングを最大まで行う。 再タッピング完了。
純正ネジの有効長を測る。 最大長を超える2.5Dを挿入してみた。(長過ぎる・・笑)
   

さて..ヘリサートが抜けたホルダーに再度タップを立てて慎重に奥までネジ山を切っていく。
ノギスで深さを計測しながら、底付きした事を確認してから2.5Dのヘリサートを静かに挿入していく。
今度は見事に奥まで挿入できたのだが..ちと失敗。(^^;
あまりにも奥まで入れたので、ヘリサートの先端のタングという部分が折れなくなってしまった。
まぁ、折る必要も無いので、そのままにしておく事にした。(本当は折るんだけど・・)
出来たネジ山は、なんと12ミリにも達する長い物でヘッドカバーボルトを固定するには十分過ぎる長さになる。

   
ホルダー再装着 忘れ物チェックして・・
ヘッドカバーを取り付ける。 丹沢湖まで一途走りしてみた。
   
【ヘリサート再考】

ここで、私はヘリサートという物がどういう物か..改めて調べてみる事にした。
すると、ヘリサート..ヘリカル・ワイヤ・スレッド・インサート若しくはヘリカル・コイル・インサートを
略して『ヘリサート(HELI-SERT)』といい、正しくは米REFAC社の製品名称である。
日本ではEサートとかスプリュー、ワイヤースなどの商標で製造販売されているが同じ物である。

国産では「日本スプリュー」か「ツガミ」が代表的なメーカーである。
以下各メーカーサイトより抜粋したヘリサートの特徴と性能である。(^^
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(ヘリサートの特徴)

1.めネジの補強
軽金属・鋳鉄・樹脂など、タップ立てしたままではメネジが弱くて高い締結力が得られないものに
スプリューを挿入することによって、ステンレス鋼の転造メネジとなり、締結力を増大し強力で確実なネジ締結が得られます。

2.めネジの耐久性
磨耗、腐食、振動、熱などによるめネジの破損を防止することができ、母材の損傷を防いで信頼されるネジ締結できます。

3.不良めネジの修理
製造工程中に発生した不良タップ穴、損傷したタップ穴の修理にスプリューを利用すれば、
簡単にもと通り以上の強力な雌ネジを再現することができます。

4.トータルコストの低減
スプリューを使用することによって、雄ネジの径やハメアイ長さの縮小、重量、容積の軽減をもたらし、
製品原価の低減、品質の向上に大きく貢献します。

(部材の特徴)

1.スプリューの構造

スプリューは母材にあけたスプリュータップ穴に、スプリュー挿入工具を使用してネジ込み固定します。
スプリューの自由外径がタップ穴より大きいので、ネジ込まれたスプリューは元に戻ろうとするスプリング作用により、
母材に確実に密着固定されます。従って、ネジの締め付け、取り外しを繰り返しても一緒に抜けることはありません。

2.スプリューの材質

スプリューは18-8ステンレス銅線SUS304を冷間加工によって圧延加工された線を使用しています。
この線の引張り強さは1000N/u以上で機械的性質に優れ、耐食性に富んでおります。
磁気や導電性の要求がある場合にはリン青銅スプリューをおすすめします。
また、一部のサイズはチタン・インコネル材(別作)でも製造しております。

3.スプリューネジの精度

スプリューの菱形線材の対辺の距離は2〜3μに仕上げています。
スプリューネジの等級はスプリュータップ穴の精度によって決まります。
スプリューゲージ検査をすれば、スプリューネジをプラグゲージで検査しなくてもよいほどの
厳格な検査基準のもとで製造されています。

4.スプリューの長さ

スプリューの長さはおネジの呼び径(D)の1倍、1.5倍、2倍、2.5倍、3倍とあり、
それどれ1DNS、1.5DNS、2DNS及び2.5DNS、3DNSです。
通常の締め付けには1.5DNSをおすすめします。

5.スプリューの性能

5-1.引張り強度の増大

母材にネジ込まれているスプリューの外径D2は、ボルトの外径D1よりネジ山の高さの2倍くらい大きくなりますので、
それだけ母材のめネジの剪(せん)断面積が増大します。
スプリューネジの引張り荷重は、スプリューを使用しない場合に比較して、1.2〜1.3倍に増大しています。

5-2.応力分布の一様性

普通ネジの場合、おネジとめネジのリード誤差及び角度誤差が生じ、接触率は60%以下と言われております。
従ってめネジとかみ合うおネジに対する荷重率は第1山に大きく掛かり約33%、第2山に22%、第3山に15%と
不均一な応力分布を生じます。 おおむね首下で破断するのは以上の理由によるものです。
スプリューネジの場合は前述の誤差を調整し、おネジとの接触率も90%近く嵌(かん)合し、各ネジ山に対する荷重比率も
理想に近い均等な応力分布を示します。
このことはおネジの疲労によるネジ山の破断を防ぎ、理想的なネジ結合をつくることになります。

以上メーカーサイトよりの抜粋(日本スプリュー株式会社:株式会社ツガミ/三友精機)

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 という具合に..ヘリサートというのは、改良を重ね完成した理想的な雌ネジという事が分かった。
逆に、ヘリサートではない一般の雌ネジという物がかなり脆いという事も改めて分かった。(-_-;

上の内容を要約するとヘリサートの効能は..
・ネジ山高さの増加により、引張り荷重はヘリサートを使用すると1.2〜1.3倍に増大する。
・ヘリサートは雄ネジの接触率60%から90%までに引き上げ均等な応力分布に修正する。
という事で..「オーバーサイズ効果」と「接触力アップ」のダブル効果が得られるという事である。

単純に考えると..接触率が理論値で60%から90%に上がったという事は、ヘッドカバーの取付ボルトは
有効が12山なので、実際には60%の7.2山程度しか接触していなかった事になる。
1.5Dのヘリサートを入れると巻き数は7山なので90%接触して6.3山は接触するという事になる。
ただし..6ミリ径の7.2山に対して7ミリ径の6.3山なのでヘリサートの方が有効接触面積が勝る事になる。
ヘリサートの有効性、強さの理由はこんなとこにあって、ボルトナットに座金が入ったのと似たりの部分がある。 

自由長の6MMの1.5Dと抜き取った1.5Dのヘリサート。 先端2山でピッチ飛びが起きた状態。

 ネジの中ではどうなっていたのか..
左の画像を見れば一目瞭然で、先端2山でピッチ飛びを
起こしてしまい、そこにボルトが入ってきたのでボルトの
ネジ山が切れてしまった..大失敗である。
幸運だったのは、母材がダメージを受けなかったことである。

 驚くべき事に、ヘリサートはピットが飛んだのにも関わらず、
回転して入ってくるボルトの山を削ってしまうほど硬度がある。
これほどの硬度のある材質がネジ山に巻き着いているのだ。
私はこれを見た時は正直..少し驚いた。
ナット側が負けるのではなくボルトが負けるという事は、
それほどネジ山の強度は高くなっているという事なのだ。
それと..ヘリサート自体がかなり柔軟に変形対応している
という事実もこの画像からも分かる事で、これがヘリサートの
密着力と結合力に繋がっているのだろうと思う。

ネジ山の中ではこうなっていた!
標準的な1.5Dヘリサートが入った状態。 1.0D・1.5D・2.0D・2.5D
ここまで調べてきて、ヘリサート強さがどこにあるのか見えてきた。(^^
確かに雌ネジとしては理想的で、私的には後発のインサートナット系の物より柔軟である為に優れていると思う。
インサートナットでは、要するに剛的な方法のオーバーサイズであり、その埋め込む製品の精度に依存するけど、
ヘリサートは基本がバネなので、ネジ山に柔軟に対応して補強するのである。

ただし..ヘリサートは優れているが、正しく理解して使わないとえらい事になる。
私のようにヘリサートの使い方を少しミスしただけで、やり直すのはえらいことである。
抜けて再加工できたので良かったけど、最悪は母材自体をダメにしてしまう可能性もある。
ヘリサートを使うにはよ〜く理解して計測して、計画して慎重に加工する事で能力を発揮する。
今回の些細なミスはヘリサートを正しく理解する上で大きな糧となったと私は思う。(^^

【補追:エンザート】(2009/05/05)
以下全て、私の私見で書いてますので、使用する際には自己責任で判断ください。

 ホームセンターで買い物をしているとエンザート(インサートナット)が目に入ったので買ってみた。

 このエンザートという物は「一般鋼材部品」で、イモネジの内側が規定ネジになっているものだ。
単純な物だけに、使い方が適材適所的確ならば裁量の結果が出せる「剛性部材」といえる。
ただし..ヘリサートとと基本的に「目的以外は全て違う物」である事に注意すべきである。
よって、ヘリサートと同じ効果が得られると思ってはならないし、その逆も同じである。
基本的にエンザートは、元々弱い母材に入れる事で強い締結力に耐えさせる部品である。
ダメになったネジ山を修正し、ネジ山に密着する事で、より強度の高いネジ山を作る物ではない

 このエンザート..調べてみると、単純な物だけに効果を出すのは難しい。
というのは、直感的に分かる事だが、二重ネジでも締まって無ければ緩むという事である。
要するに、エンザートはセルフタップでネジ山を切る事でエンザートと母材の密着を増している。
これが先ず第一条件で、セルフタップしながら入れられるだけ入れて結合力を確保する。
これはとても重要な事で、エンザートの仕様から既成ネジ山に入れるよりも、
セルフタップでネジ込んで入れっ放しが理想である。

 既成ネジ山に入れてしまえば、そのネジ山を立てたタップとエンザートの違いから密着力は確実に落ちる。
エンザートはヘリサートと違い剛性部品なので、既成ネジ山とエンザートのネジ山間に誤差がある。
二重ネジの場合は「その密着力こそが要」であるといえると思う。
よって..エンザート加工する場合はエンザートによるセルフタップが正しいと思われる。

 更に..エンザートを使う場合に注意すべきは、エンザートが母材に締結されることである。
「密着」と違うのは「締まっている」という事で、エンザート自体が母材にしっかり締まって無ければならず、
エンザートが緩い状態、もしくは緩みやすい状態では、中に入るネジをいくら締め込んでも無駄である。
これは、考えれば分かる事で、母材に締まっているのは、ネジではなくエンザートである。
つまり..ネジとエンザートは一体になって母材に締まるか、もしくはエンザートと母材が一体になる必要がある。

   
ヘリサート(左):菱形断面をしたスプリング状のコイル(ネジブッシュ)で、自在性があります。
おネジとめネジのリード誤差、角度誤差を吸収し、ヘリサートとボルトのはめあい長さ全体に応力が
分散されるため、強いネジ結合が得られます。

エンザート(右):エンザートは、主に直タップでネジ山がつぶれやすい母材(アルミ合金、プラスチック材全般など)に使用されるインサートナットです。内径、外径の両方に ネジを持ち、
個体に割溝または三つ穴式の切刃を備えています。比較的強度の低い母材のネジ部を補う、
信頼性の高い締結部品として機能します。

左:ヘリサート・右:エンザート

以上メーカーサイトよりの抜粋(株式会社 三友精機)

   

 気を付けなくてはならないと思ったのは..エンザートは切刃部分の7ミリが当てにならない事。
この長さ(14ミリ)のエンザートで有効なのは360度がネジ山で閉じている7ミリの部分だけである。
有効山の場所が首下にあるので、締め込みに対しては有効に働く事になる。

 入れ込みの長さに付いても重要なポイントだと思われる。
切刃部分の7ミリは中ネジ側の締結力は無くても、エンザート自体の外側で引抜抵抗力となっている。
RC造の計算などをすれば分かる事だが、コンクリート(母材)と鉄筋(部材)の締結力は定着長と定着周長で決まる。
その為、エンザートの長さが短くなれば、母材との締結力は失われてしまう。
まして母材とエンザートが完全に締結されて無い状態であれば、エンザートは能力を発揮できない。

エンザートのサイズを見れば分かるが、例えばM6の場合は最小が全長14ミリの物。(この1種しかない事が多い)
この14ミリのエンザート(私の買ったのもこれである)を見ると..内側山の有効山(割りの無い部分)は7〜8山で、
これはヘリサートの1.5D(外形の1.5倍)に当たり、エンザートも有効は1.5Dであると思われる。

しかし..ここで、6ミリのネジの1.5Dは9ミリなのだが、母材に噛む外ネジ(8ミリ)の1.5Dは..12ミリである。
だが、6ミリのエンザートが母材に締結する部分は切刃部7ミリ+胴部7ミリであり、完全締結するのは胴部のみ。
つまり、6ミリ用のエンザートを母材に入れると、全部入れた状態で有効部分は7ミリのみである。
これはエンザートの外形が8ミリのネジという事を考えれば1.0Dにしかならない。
仮に切刃の部分の半分を有効としても有効長は3.5+7=10.5ミリで1.3D程度にしかならない。
まぁ..いろいろ検討した結果が切刃を含めて14ミリとしたのだろうと思う。
よって「エンザートの切刃部分は母材締結力は低い」のでエンザートは全て挿入するのが原則である。

エンザートは切刃付きのインサートナットである。 ヘリサートとエンザートは全く異なる物である。

まとめてみると・・
・セルフタッピングによる、母材に対するネジ山の密着。
・エンザート自体が母材に締めこまれている事。
・エンザートが十分に母材に入っている事。
この3点が全て満たされてこそ..二重ネジというエンザート加工は意味を持つ事になるといえる。
なにか一つが欠けても、この二重ネジは働かない。
正しく使われていれば..その剛性ゆえに、非常に強いねじ山を作る事が出来る。

私なりの結論は・・
・ネジ山救済に使うには、母材側の強度/場所を含めて十分な検討が必要である。
・本来は十分に部材厚みのあるプラスチックや軟アルミ材に埋めこんでナットとする部品である。
・ヘリサートとは、目的は類似するが、基本から展開まで全く異なる部品であり性能比較は出来ない。
と・・使用に関して難しい部分があり、よくよく理解して用いれば効果的な場合もある。(適材適所&熟慮し正しく使う)

2009/04/25(2009/04/05更新・改正)

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